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ぎたい

擬体

豊島 与志雄

「新潮」1952(昭和27)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,945 字 · 25 页

青空文庫

」

「現在の君としては、そうだろうね。」

青木は眉根を寄せた。なんだか予期に反するのだった。話があまり通じすぎるのである。石村は静かに言った。

「君も変ったねえ。」

青木は石村の眼を見た。

「つまり、なんというか、インテリになったということだよ。時勢が変り、緊迫が次第に激しくなると、僕も変った。君と反対に、次第に野蛮になってゆくよ。どうも、君と僕とは反対の方向に歩いてるようなものだね。」

青木はまた眉根を寄せた。話があまり通じすぎるのだった。ふと、疑念が湧いた。

「私があのようなふしだらをしたから、退職の口実を造ってやるために、冗談を仰言ったのではありますまいね。」

「冗談というと……。」

「スパイ云々、情報云々……あのことです。」

「違う。絶対にそんなことはない。その証拠には、君に約束しよう。いつでもまた復職したかったら、やって来給え。その代り、君の方からやって来ない限り、僕の方からは手を差伸べないからね。その点ははっきりしておこう。」

「よく分りました。」

もう言うべきことはなかった。石村は辞職願を仕事机の抽出しに納めた。

青木は暫く考えてから、切り出した。