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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

遙に谷を隔てた火葬場の煙突からは終夜死人を焼いた余煙であろう、微に黄ぽい重そうな煙を上げていた。墓地には殆ど人影はなかった。

折柄、墓石の下に永久の安い眠りについている霊を驚かすように一台の大型自動車がけたゝましい爆音を上げて、この大崎町の共同墓地を目がけて、驀地に駆けつけて来た。

やがて自動車は墓地の入口にピタリと止った。中からドヤ/\と降りた人達は墓地の発掘に出張した神楽坂署の一行だった。

墓地の一隅に十坪あまりの平坦な所があった。うかと通り過ぎた人には只の空地と見えたかも知れぬ。然しそこは引受人のない身許不明の屍体を仮りに埋葬した所だった。墓石はもとより墓標すらなく、埋葬した当時にホンの少しばかり盛り上っていた土も雨に流され、風に曝されて、いつの程にか形を止めぬようになっているのだった。

警官の一行は案内の人夫に連れられて、空地の前に立った。

同じ人間に生れて同じく定命つきて永劫の眠りについても、或者は堂々と墻壁を巡らした石畳の墓地に見上げるような墓石を立てゝ、子孫の人達に懇ろに祭られている。それ程でなくても、墓石一基に香華一本位の手向のあるのは普通であろう。