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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

が、然しもし鑑定の結果が予期に反したとすると、第一に数日間全精力を傾倒して、必死の思いでかゝった仕事が根本から水泡に帰して終う。のみならず、署長以下同僚に対して合わせる顔がない、そして女中失踪事件は再び迷宮に這入り、支倉を糺弾する事が出来なくなる。支倉を取逃がしてから一日として安き思いのなかった石子刑事は、今日の鑑定の結果がひどく気に懸るので、すっかり心を暗くして重い足を引摺って、あれこれと思い悩みながら歩んで行くのだった。

彼は漸く高等工業学校の門に辿りついた。彼は門衛に来意を告げて、大川に流れ込む細い溝に沿って半町ばかりの石畳の路を歩いて行った。校舎のある辺りはもう直ぐ大川で、満々と水を湛えて流れる水は岸をヒタ/\と打っていた。三月の暖かい陽は不規則な波紋を画がく波頭をキラ/\照していた。どこからともなく一銭蒸気のカタ/\と云う音が響いていた。

染色科の若い教授は学者らしい重厚な顔に、微笑を堪えながら石子刑事を迎えた。

「何分古いものでしてね」

教授はポツリ/\話出した。

「確定的にハッキリ申上げる事は出来ませんがね、黒ぽい方は確に繻子の帯地です。