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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
この上は出来るだけ証拠を集めて支倉を自白させる許りだ。
それにしても支倉はどこにいるのだろうか。この考えに突当ると石子刑事の晴れやかだった顔は俄に暗くなった。
石子刑事はふと又暗い気持になったが、出来るだけ気を変えて、滅入る心を今日の成功に励ましながら、この吉報を署長以下に報告すべく神楽坂署へ急いだ。
石子刑事に代って支倉追跡の任に当って、写真師浅田の家に泊り込んだ渡辺刑事の苦心も一通りのものではなかった。彼は一歩も家の外へ出る事は出来なかった。三食とも近所の仕出し屋から運ばせて、夜でも昼でも油断なく眼を光らしているのだった。すべての郵便物は配達夫から直接に受取り、怪しいと思われるものは浅田に命じて開封させた。浅田の出す手紙にも一々注意深く気を配ばらねばならなかった。彼は敵地にいる斥候兵のように全身を眼と耳とにして、一分たりとも気を許す事が出来なかったのである。
もし今度しくじって再び浅田と支倉との間に文通でもさせたら、それこそ一大事で、二人とも尋常一様の者でない。驚くべく好智に長けた者であるから、そうなると再び何かの手懸りを掴む事は容易な事ではないのだ。