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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

前の人が斃れゝばそれが幸いで、その死屍を踏み越えて前進する。宇治川の先陣争いで、佐々木が梶原を誑した位の事は何でもない事になっている。

今はそうでもないが、今から十年前となると、何と云っても官学の元締めの帝大の卒業生などは鼻息の荒いもので、何とかして出世しようと思う。一つには学生と云うものが誠に純真で、世相の複雑な事が分らないから、先輩などのやり方がまだるこしくって、彼等が社会に出てまごついているのが歯痒ゆい。俺ならあんな事をするものか。乃公一度び出れば手に唾して栄職につく事が出来ると考える。そして何分にも長い学生生活に倦きているから、社会に出て働くと云う事に無限の興味と期待を持っている。だから卒業したての学生の意気組みと職業的良心と云うものは素晴らしいものだ。之は誰でも学窓を出たての就職当時の事を回想すればきっと思い当る所があると思う。この意気組みと職業的良心が誠に貴い所で、之を善用し活用すれば大したものになるのだが、悲しい事には官庁でも会社でも組織に欠陥がある為に、素直にそれを受け入れる事が出来ない。その為にフレッシュマンの意気は次第に沮喪し、元気は消耗し萎縮して終う。