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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

問 当日喜平は何時に家を出て、何時に戻ったか。

答 朝八時か九時頃家を出て、貞子の叔父さんが去って後戻りました。支倉の戻ったのは夕飯後ですから、七時か八時頃であったと思います。

問 喜平は当日どこへ行ったとの話であったか。

答 平常黙って出るので尋ねませんから、どこへ行ったか存じません。

問 戻った時喜平の様子は変った所はなかったか。

答 別にありませんでした。

静子は知れるがまゝに、少しも悪びれず事実を申立てた。

夫に対して絶対服従していた彼女は夫の犯罪には、少しも干与していなかった。全く表面的な事実だけしか知らないのだった。

蒼ざめた横顔を見せながら、問われるまゝにスラ/\と返辞する静子の哀れな姿を古我判事はじっと眺めていたが、やがて優しく云った。

「宜しい。今日は之だけにして置きます。では今の問答を読み聞かせます」

書記の読み上げるのをじっと聞いていた彼女は黙って頭を下げた。彼女は印形を持っていなかったので、調書には署名をした切りで、印を押す事が出来なかった。

「宜しい」

判事の許しの声に彼女はホッとして室を出て行った。

古我氏はじっとその後姿を見送っていたが、やがてはっと緊張しながら、待たせてあった証人小林定次郎を呼び入れた。