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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
その為に通るべき筋道の事でも通らなくなる恐れを生じるのは彼の為に惜むべき事だ。例えばこゝに持出した拷問事件でも、彼が予審廷に引出されると同時に申立てれば好かったものを、古我判事が苦心調査に当って、正に二ヵ月を経過した今日に俄然そんな事を云い出しても既に遅い。のみならず、その二ヵ月の間に於ても度々申立てを変更したり、電車はなかった筈だなどと云った。自白の事実を否認しようかとかゝって失敗したりした後だから、いよ/\彼に不利なのだ。
けれどもこの拷問云々の上願書は今後彼が大正十三年六月十九日第二審の判決に先だって、獄中に庄司署長に対して恐ろしい呪いの言葉を吐きかけながら縊死を遂げるまで、約八年の長きに亘って、繰り返し述べ立てた所で、長き獄中生活と、その孤独地獄の苦艱から逃れる為に五体のあらゆる部分から、必死の力を絞り出し、苦痛は呪いを生み、呪いは悪を生み、悪は更に悪を呼んで、生きながら悪の権化と化し、世を呪い人を罵り蒼白な顔に爛々たる眼を輝かし、大声疾呼して見る人をして慄然たらしめたと云う、世にも稀な世にも恐ろしい彼の半生の出発点ともなったものであるから、こゝにその概略を掲出して、断罪の項を終ろうと思う。