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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

此手紙のうちには貞の問題に関して、小林兄弟の行動を非難し、自己の立場が縷々として弁明してある筈、之があれば必ず有利な云い開きが出来ると考えた。そこで自分に深甚の同情を持って呉れる木藤救世軍士官に依頼して、首尾よくその手紙を手に入れる事が出来た。

彼は手紙を手渡された晩、ニヤリと気味の悪い会心の笑を漏らしながら、自分の認めた古手紙を一々調べて見た。が、読んで行くうちに、みる/\彼の微笑は消え、残念そうな表情が浮んで来た。手紙には予期したような有利な言葉を見出す事が出来なかったのだ。

彼は暫くハッタと薄暗い監房の片隅を睨んでいたが、やがて彼の非常な脳髄の冴えは、神戸牧師の寄越した手紙のうちに自分の書いた覚えのある三本の手紙が欠けている事を発見した。

彼は眼を大きく見張り、大きな息を弾ませながら、物凄い形相で呻り出した。

「うむ、隠したな」

こゝに欠けていたと云う三本の手紙は果して彼に取ってそんな有利なものだったろうか。それは疑わしいが、今全精力を挙げて罪を云い解こうとしている異常な念力で手紙の欠けている事を発見した彼には、釣り落した魚が大きく思えるように、いや今の彼はそんな悠長な比喩では現わせない、死か生かと云う之以上重大な事はないと思える事件に当っているのだから、欠けている三本の手紙がいかに大きく彼に響いた