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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

「喜平に対して最初嫌疑をかけたのは窃盗と詐欺と云う事であるが、詐欺とはどう云う事実か」

「窃盗につき調べているうちに詐欺の事実が現われたのである」

「支倉は誰か告訴したものがあったか」

「いや、聞き込みであった」

「二月十九日より三月十八日頃まで一ヵ月に亘っているが、此間被告をどう云う理由で留置したか」

「浮浪罪であったか、虚偽の陳述によったか、警察犯処罰令によったと思う」

「いや、それは処罰する目的でなく被告に対して殺人と云うて留置したのではないか」

「それについては確な記憶はない。仮りに云われる通りであったとしても、答弁の必要を認めない」

以上が能勢氏の追究に対する庄司氏の答弁の最初の一節であるが、見らるゝ通り殺気立ったものだった。能勢氏の辛辣なる質問に対し庄司氏は明快簡単に之を報いたのだった。

両氏応答数次、長時間に亘って漸く終ると、裁判長は証人神戸牧師出廷せざるにより、公判を続行し、次回を来たる六月三十日と定めて閉廷を宣した。

絶望

公判廷を出て東京刑務所に護送される途すがら、自動車の中で支倉は顔面蒼白、或いは痛恨し、或いは憤懣し、意気頗る上らなかった。