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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

「少いけれどもね、之で一つお茶菓子でも買って呉れないか」

石子刑事は一円紙幣を出した。薄給の刑事で限られた軽少な手当から、之だけの金を出すのは辛かったが、彼等に親しく口を開かせるのには有効な方法で、彼は度々この方法で成功したのだった。

車座となって番茶の出がらしを啜りながら、石子の御馳走の餠菓子を撮んで雑談に耽っているうちに彼等はだん/\打解けて来た。

「背の低い肥った運送人、どうも知りませんね。お前どうだい」

人夫の一人は云った。

「この辺にはどうもそんなのは居ないようだね」

一人が考え/\答えた。

石子刑事の御馳走と世間馴れた話振に、すっかり打解けた運送店の人夫は知っているだけの事は残らず話し、背の低い運送人についても考えて呉れたが、結局誰も知らない事になって、石子刑事は何一つ得る所なくその運送店を出ねばならなかった。

石子刑事はそれから丹念に運送店を一軒々々訪ね歩いたが、正午近くまで何の効果もなかった。

目黒駅から五反田駅の方にかけて尋ね歩いていた渡辺刑事も正午頃まで無駄足をしていた。

が、この度は運は渡辺刑事にあった。

彼が落胆しながら重い足を引摺って五反田の方から引返して来ると、或る狭苦しい横丁に、うっかりしていると見落すような一軒の小さい運送店があった。