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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
「芝の三光町から来ましたが、支倉の旦那に一寸お目にかゝりたいのです」
「はい」
小娘はこっちの名も聞かずに引込んで行った。石子はしめたと思った。
返辞いかにと片唾を飲んでいる石子刑事の前へ現われたのは女中でなくて、四十近い品のある奥さん風の女だった。
「あの、支倉さんのお使いですか」
彼女は腑に落ちないような顔で石子を仰ぎ見た。
「はい、そうです」
「荷物を取りにお出たのですか」
意外な言葉である。流石の石子も鳥渡二の句がつげなかった。
「え、荷物を取りに?」
「そうじゃないんですか」
奥さんは後悔したように云った。
「さっき支倉さんから荷物が一車来ましてね、いずれ頂きに上るから預っといて呉れと云う事でしたから、もう取りに見えたのかと思いましたのですが」
「じゃ、支倉さんは居られないのですね」
石子は落胆した。
「はい、見えては居りません」
「支倉さんに是非お目にかゝりたいのですがね。今どちらにお出でゞしょうか」
「さあ、それは手前共には分りませんが、お宅の方でお聞き下さいましたら」
「お宅で伺って、こっちへ来たのですがね、鳥渡お待ち下さい」
石子は外に立っている渡辺を呼びかけた。