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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

そうやって我々の注意を他へ向けて細君に呼び出しをかけているんだからね。所がそいつを看破って、密会場所を突き止た根岸が亦、いつの間にやら彼に逃げられて、寒空に中野の教会の外で五時間も立たされたと云う始末なんだ」

二人は尚もボソ/\と打合せをした後、そっと左右に別れたのであった。

「岸本、ちょっと」

浅田写真館主は気むずかしい顔をして呼んだ。

「はい」

岸本は彼の前に畏った。

「わしはちょっと出掛けるからね。この焼増の分と、それから之を台紙に張るんだ。ロールを旨くやらなければいかんぞ」

「はい、承知しました。今日の現像はどういたしましょう」

「いや、現像は好い。未だ独りでやらせるには少し危い」

「大丈夫ですよ、先生」

岸本は美しい眉をきりっと揚げた。

「ハヽヽヽ」

浅田は猪口才なと云わんばかりに笑った。

「まあ止しとこう。現像はしくじられると取返しがつかんからな」

「そうですか」

岸本は不服そうに云った。

「おい、お篠」

浅田は妻を呼んだ。

「では出かけるよ」

「いってらっしゃい」

次の間からお篠は大きな声で答えた。

ブロマイドの焼付を終って暗室を出て、岸本はせっせと台紙に出来上っていた写真を貼りつけていると、お篠が傍へやって来た。