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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

いや彼が犯人であると云う事は確実であると信じているが、もし同行を拒んだらどうしたものだろうか。彼の大胆な遣口を見ると、きっと素直に出頭に応じないに違いない。こんな考えで石子刑事の頭は暫く占領された。

岸本青年の依頼を受けると、石子刑事は翌日神田神保町の書店を訪ね歩いた。二、三の書店で、彼は問題の卸元で未だ市場に出さない聖書が販売されている事を確めて、其出所を調べると、支倉喜平という宣教師の手からである事が分った。彼は支倉の容貌の特徴など委しく聞いた上、直ぐに横浜へ向った。

途々彼は考えた。盗まれた書籍の量は相当大きいから、到底手などで提げられるものではない。必ず車で運び出したものに違いないとすると停車場の車を利用したと見るべきであろう。然し、彼等は口留をされているかも知れないから、先ず聖書会社の附近でそれとなく聞いて見るが好い。そう思った彼は桜木町の駅から真直に山下町の日米聖書会社に向った。

会社の直ぐ筋向うに一軒の車宿があったので、それとなく聞いて見ると、通常こう云う所では後のかゝり合いになるのを恐れて、容易に口を開かないものであるが、意外にも輓子達は口を揃えて進んで事実を話して呉れた。