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しなまいのふくろ
支那米の袋
夢野 久作
「新青年」1929(昭和4)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,357 字 · 50 页
よく気を落ち着けて聞いて頂戴……ね。私は貴女が可愛いくて可愛いくてたまらない余りにコンナ事をするのです。私は貴女が、あんまり綺麗で可愛いから、亜米利加の貴婦人と同じようにして殺してみたくなったのです。ね。いつぞやお話して上げた恋愛ごっこの事を、まだ記憶えていらっしゃるでしょう、ね、ね、わかったでしょう。……私は最早近いうちに日本と戦争をして戦死をするのです。ですからもう、貴女以外の女の人と結婚する事は出来ないのです。貴女と一緒に天国に行くよりほかに楽しみは無くなったのです。ですから満足して、私の云う事をきいて頂戴。ね、ね、温柔しく私の云う通りになって死んで頂戴。ね、ね……わかったでしょう。ね、ね……」
そう云ううちにヤングは妾の足に捲かった針金を解き始めたの。そうして胸の上までユックリユックリ解いてしまうと、
「サアサア。寒かったでしょうね」
って云いながら、又、もとの通りに袋を冠せて口をシッカリ括ってしまったの。
ええ……妾はちっとも手向いなぞしなかったわ。死人のようにグッタリとなって、ヤングのする通りになっていたわよ。
その時のヤングの声の静かで悲しかったこと――ほんの一寸の間だったけど、妾の胸にシミジミと融け込んで、妾に何もかも忘れさしてしまったのよ。