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ほうしんきょうじゅ
放心教授
森 於菟
「屍室斷想」時潮社、1935(昭和10)年3月9日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,647 字 · 10 页
なお図書室の一隅に新刊雑誌の棚があるごとくここでは新着の傘はひとまとめにしてある。係りの人の話では朝から雨がふって昼から晴れた日の午後には百本内外は必ずここに運びこまれるという。また一年とめ置いて払い下げるがあまり多くなって整理に困るし一年倉庫に置くと布地がボロボロになるので半年で払い下げることにしようとよりより相談中だとのこと。このほかに行李いっぱいの懐中時計、万年筆、その他指輪貴金属等の数々を見せられたのは見聞のせまい私にとって十数年前米国シカゴのストックヤードで千余の豚の吊し斬りを参観した以来の深い印象を与えさせられた。
かくて省線電車の中で座席のわきに立てかければ必ず置き忘れ、市内電車の出入口に近い手すりに柄の曲ったところを引っかけたまま置いてくる蝙蝠傘、郵便局や銀行の窓口で署名するたびに捨ててくる万年筆、講壇の上に放りぱなしで学校を出て昼頃ねじを巻こうとして気がつく懐中時計なぞはここに記す価値がないとなると、さて何を書いたものか。考えればまだいろいろある。それを思い出してポツポツ列べる前に、ありふれたかつ紛失物中最多数を占める蝙蝠傘の中に一つ変ったのがあったから一例報告しておこう。