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ほうしんきょうじゅ
放心教授
森 於菟
「屍室斷想」時潮社、1935(昭和10)年3月9日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,647 字 · 10 页
「ドクター、仮装会にはまだ早い。Damenhut をかぶってどうしたのだ」という。私の帽子は婦人専用のものであったらしい。帽子はお主婦さんにやってタオルを鉢巻にして出直したら今度は誰も笑わぬ。その夕方海岸の天幕張りの食堂で食事をしていた時、そこに一人の若い外国士官が飛行服をつけたまま入ってきたのを皆囁き合ってクスクス笑っていた。これは大戦後ドイツが飛行機の製作をとめられたための反感とこういう場所に飛行服のまま入り込む衒気に対する冷笑であったらしい。
ネクタイを忘れることがしばしばある。ベルリンでも電車にのって気がついて頸を押えたまま下宿へとんで帰ったことがある。日本に帰ってから数えれば十回に近い。たいがいは電車にのって人のネクタイを見ると気がつくが大宮に住むようになってからはとりに帰ると間に合わないので上野駅まで我慢して駅の地下室の売店で買って結んで行ったことが二度、そしてまた一度は講堂へ出る前に初めて気がついた。時、折しも盛夏であったので、わざとカラーをはずしワイシャツの襟を折って流行の尖端を行く開襟党のごとくよそおって出たら学生がわっとはやした。