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ほうろう

放浪

織田 作之助

「文學界 第七年第五号」文藝春秋、1940(昭和15)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,614 字 · 47 页

青空文庫

見れば、畳の上にハラ/\と涙をこぼし眼をこすりもしないで、芝居がかった容子であるから、丸亀夫婦も舞台に立ったような思いいれを暫時した。一杯行こうと叔父の差し出す盃を順平はかしこまって戴き、呑み乾して返えす。それだけの動作の間にも、しーんとした空気が張っていた。その空気が破れたかと思うと、順平は、阿呆の自分にもこれだけは言わしてほしい言葉、けれど美津子さんは御承諾のことでっかと、律気めいた問い方をした。尼になる気持で……などと言うたら口を縫いこむぞといゝきかされていた美津子は、いけしゃあ/\と、わてとあんたは元から許嫁やないのといった。二親はさすがに顔をしかめたが、順平はだらしなくニコ/\して胸を張り、想いの適った嬉しさがあり/\と態度に出た。いやらしい程機嫌を誰彼にもとった。阿呆程強いもんはないと叔母はさすがに炯眼だった。

婚礼の日が急がれた。美津子の腹が目立たぬ内にと急がれたのだ。暦を調べると、良い日は皆目なかったので、迷った揚句、仏滅の十五日を月の中の日で仲が良いとてそれに決められた。婚礼の日六貫村の文吉は朝早くから金造の家を出て、柿の枝を肩にかついで二里の道歩いて、岸和田から南海電車に乗った。