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ほうろう

放浪

織田 作之助

「文學界 第七年第五号」文藝春秋、1940(昭和15)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,399 字 · 47 页

青空文庫

客商売に似合わぬ汚い部屋で、ぽつねんと待っていると、おおけにと妓がはいって来た。醜い女だが、白粉と髪油の匂いがプンプンしていた。順平はこの女が自由になるとはまるで夢のように思われた。

しかし、本能的に女に拒まれるという怖れから、肩をさわるのも躊躇され、まごまごしている内に、妓は眠って了った。いびきを聴いていると、美津子の傍でむなしく情けない想いをした日々のことが連想された。

朝、丸亀へ帰る途々、叔父叔母に叱られるという気持で心が暗かったが、ふと丸亀から逐電しようと、心を決めると、ほっとした。家へ帰り、どないしたんや、家あけてという声をきき流して、あちこちで貰う祝儀をひそかに貯めて二百円ほどになっていた金を取出し、着物を着変えた。飛び出すんやぞ、二度と帰らんのやぞという顔で叔父叔母や美津子をにらみつけたが、察してくれなかったようだ。それと気付いて引止めてくれるなり、優しい言葉をかけてくれるなりしてくれたら思い止まりたかったが、肚の中を読んでくれないから随分張合いがなく、暫くぐずついていたが、結局、着物を着変えたからには飛び出すより仕方ない、そんな気持でしょんぼり家を出た。