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ほうろう

放浪

織田 作之助

「文學界 第七年第五号」文藝春秋、1940(昭和15)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,399 字 · 47 页

青空文庫

けれど、そうと知っても北田を恨む気は起らなかった。あくる日、北田は※でシチューと半しまを食わせてくれた。おおけに御馳走さんと頭を下げる順平を北田はさすがに哀れに思ったが、どや、一丁女を世話したろか、といった。「リリアン」の小鈴に肩入れしてけっかんのやろと図星を指されてぽうっと赧くなり一途に北田が頼もしかったが、肩入れはしてるんやけどナ、わいは女にもてへんのさかい、兄貴、お前わいの代りに小鈴をものにしてくれよ。そういう態度はいつか木下にいった時と同じだったが、北田は既に小鈴をものにしているだけにかえって気味が悪かった。

オイチョカブの北田は金が無くなると本職にかえった。夜更けの盛り場を選んで彼の売る絵は、こっそりひらいてみると下手な西洋の美人写真だったり、義士の討入りだったりする。絶対にインチキと違うよ、一見胸がときめいてなどと中腰になって、何かをわざと怖れるようなそわそわした態度で早口に喋り立て、仁が寄って来ると、先ず金を出すのがサクラの順平だ。絵心のある北田は画をひきうつして売ることもある。そんな時はその筋の眼は一層きびしい。サクラの順平もしばしば危い橋を渡る想いにひやっとしたが、それだけにまるで凶器の世界にはいった様な気持で歩き振りも違って来た。