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ほうろう
放浪
織田 作之助
「文學界 第七年第五号」文藝春秋、1940(昭和15)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,399 字 · 47 页
ひがんでいるという言葉がやがて順平の身辺をとりまいた。一つ違いの義弟と二つ違いの義姉がいて、その義姉が器量よしだと子供心にも判った。義姉は母の躾がよかったのか、村の小学校で、文吉や順平の成績が芳しくないのは可哀相だと面と向って云うのだ。兄の文吉はもう十一であるから何とか云いかえしてくれるべきだのに、いつもげらげら笑っていた。眼尻というより眼全体が斜めに下っていて、笑えば愛敬よく、また泣き笑いにも見られた。背が順平よりも低く、顔色も悪かった。頼りない男であったが、順平には頼るべきたった一人の兄だったから、学校がひけると、文吉の後に随いて金造の家へ行くことにした。
金造は蜜柑山をもち、慾張りと云われた。男の子がなく、義理で養子にいれたが、岸和田の工場で働かせている娘が子供をもうけ、それが男の子であったから、いきなり気が変り、文吉はこき使われた。牛小屋の掃除をした。蜜柑をむしった。肥料を汲んだ。薪を割った。子守をした。その他いろいろ働いた。順平は文吉の手だすけをした。兄よ、わりゃ教場で糞したとな。弟よ、わりゃ寝小便止めとけよ。そんなことを云いかわして喜んでいた。