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ほうろう

放浪

織田 作之助

「文學界 第七年第五号」文藝春秋、1940(昭和15)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,399 字 · 47 页

青空文庫

といったその言葉の裏は、丸亀へ無心に行けだとは順平にも判ったが、そればっかりはと拝んでいる内に、ふと義姉の浜子のことを頭に泛べた。大阪病院で看護婦をしていると、死んだ文吉が云っていた。訪ねて行くと、背丈ものびて綺麗な一人前の女になっている浜子は、順平と知って瞬間あらとなつかしい声をあげたが、どうみてもまっとうな暮しをしているとは見えぬ順平の恰好を素早く見とってしまうと、にわかに何気ない顔をつくろいどこぞお悪いんですの、患者にもの云うように寄って来て、そして目交で病院の外へ誘い出した。玉江橋の畔で、北田に教った通り、訳は憚るが実は今は丸亀を飛び出して無一文、朝から何も食べて無いと無心すると、赤い財布からおずおずと五円札出してくれた。死んだ文吉のことなど一寸立ち話した後、浜子は、短気を出したら損やし、丸亀へ戻って出世して六貫村へ錦を飾って帰らんとあかんしと意見した。順平はそうや、そうやと思うと、急に泣いたろという気持がこみ上げて来てぼろぼろと涙をこぼし、姉やん、出世しまっせ、今の暮しから足を洗うて真面目にやりまっさと、云わなくても良いことまで云っていると、無性に興奮して来て、拳をかため、体を震わせ、うつ向いていた顔をきっとあげると、汚い川水がかすんだ眼にうつった。