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ほうろうさっかのぼうけん
放浪作家の冒険
西尾 正
「探偵春秋 第一巻第三号」春秋社、1936(昭和11)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,694 字 · 33 页
寒いとおれはきまって腹立たしくなるうえに、じつはめずらしくはいった詩の原稿料で、近所のカフェにはたらいている Lulu という女をつれだし、ひさしぶりでどこかのホテルでブルジョア気分でも味おうと思っていったのだが、リュリュのやつ、もみあげのながい赤いワイシャツをきた絵かきふうの、ロシヤ人らしい青二才とひっついていて、おれのほうはみむきもしないのだ。業腹だった。のみすけのおれのことだからべつにやけ酒じゃないのだが、端からみたらそうとれるかもしれぬ。ともかく相当あおってそこをでてからタクシーをねぎって、Q街からS河の橋をわたって一時間たらずのところに一画をなしている、ある裏街区域へすっとばすことにした。腹癒せもあったが、空にひっかかった月からがして、何かこうおれたちをいじめつけるようにきびしく、ロマンティックで、反撥と誘惑のようなものから、なにかめずらしい冒険のようなものを求めようとする人間の、よわいあえぎかもしれぬ。
どこのどんな文明国にも表があれば裏のあるのはあたりまえのはなしだ。そこはまあ、仮にX街の裏通りとよんでおくが、東京でいえば川向うの世界のようなところで、ひととおりは婬惨で、不潔で、犯罪むきにできている。