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すうがくとごがく

数学と語学

寺田 寅彦

「東京帝国大学新聞」1929(昭和4)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,575 字 · 7 页

青空文庫

ギリシア哲学盛期の言語に比べて二十世紀の思想界の言語はこういう意味では、ほんの少ししか進歩していないかもしれない。しかし現在よりもっと進歩し得ないという理由は考えられない。人間の思考の運びを数学の計算の運びのように間違いなくしうるようにできるものかどうかはわかりかねる。しかし、少なくともそれに近づくようにわれわれの言語、というかあるいはむしろ思考の方式を発育させる事はできるかもしれない。もっともそうなるほうがいいか、ならないほうがいいか、これはまたもちろん別問題である。

私が「数学と語学」という題でこの原稿を書き始めた時は、こういうむつかしい問題にかかり合う考えはなかった。ただ語学が好きで数学のきらいな学生諸君と、数学が好きで語学がきらいな学生諸君とに、その好きなものときらいなものとに存外共通な要素のある事を思いださせ、その好きなものに対する方法を利用してそのきらいなものを征服する道程を暗示したいと考えたまでであった。それがやはりうさぎの足跡的に意外な方面を飛び歩いて結局こんなものが書き上がってしまった。これはやはり人間、というよりむしろ私の言語の不完全のせいだとして読者の寛容を祈る事とする。