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もじか
文字禍
「文学界」(「古譚」の題で)1942(昭和17)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,454 字 · 13 页
ナブ・アヘ・エリバはニネヴェの街中を歩き廻って、最近に文字を覚えた人々をつかまえては、根気よく一々尋ねた。文字を知る以前に比べて、何か変ったようなところはないかと。これによって文字の霊の人間に対する作用を明らかにしようというのである。さて、こうして、おかしな統計が出来上った。それによれば、文字を覚えてから急に蝨を捕るのが下手になった者、眼に埃が余計はいるようになった者、今まで良く見えた空の鷲の姿が見えなくなった者、空の色が以前ほど碧くなくなったという者などが、圧倒的に多い。「文字ノ精ガ人間ノ眼ヲ喰イアラスコト、猶、蛆虫ガ胡桃ノ固キ殻ヲ穿チテ、中ノ実ヲ巧ニ喰イツクスガ如シ」と、ナブ・アヘ・エリバは、新しい粘土の備忘録に誌した。文字を覚えて以来、咳が出始めたという者、くしゃみが出るようになって困るという者、しゃっくりが度々出るようになった者、下痢するようになった者なども、かなりの数に上る。「文字ノ精ハ人間ノ鼻・咽喉・腹等ヲモ犯スモノノ如シ」と、老博士はまた誌した。文字を覚えてから、にわかに頭髪の薄くなった者もいる。脚の弱くなった者、手足の顫えるようになった者、顎がはずれ易くなった者もいる。