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もじか
文字禍
「文学界」(「古譚」の題で)1942(昭和17)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,454 字 · 13 页
これは明らかに不合理だ、エレシュキガル神ともあろうものが、あんな子供瞞しの計に欺かれるはずがあるか、と、彼等は言う。碩学ナブ・アヘ・エリバはこれを聞いて厭な顔をした。青年等のごとく、何事にも辻褄を合せたがることの中には、何かしらおかしな所がある。全身垢まみれの男が、一ヶ所だけ、例えば足の爪先だけ、無闇に美しく飾っているような、そういうおかしな所が。彼等は、神秘の雲の中における人間の地位をわきまえぬのじゃ。老博士は浅薄な合理主義を一種の病と考えた。そして、その病をはやらせたものは、疑もなく、文字の精霊である。
ある日若い歴史家(あるいは宮廷の記録係)のイシュデイ・ナブが訪ねて来て老博士に言った。歴史とは何ぞや? と。老博士が呆れた顔をしているのを見て、若い歴史家は説明を加えた。先頃のバビロン王シャマシュ・シュム・ウキンの最期について色々な説がある。自ら火に投じたことだけは確かだが、最後の一月ほどの間、絶望の余り、言語に絶した淫蕩の生活を送ったというものもあれば、毎日ひたすら潔斎してシャマシュ神に祈り続けたというものもある。第一の妃ただ一人と共に火に入ったという説もあれば、数百の婢妾を薪の火に投じてから自分も火に入ったという説もある。