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ぶんがくにおけるこんにちのにほんてきなるもの

文学における今日の日本的なるもの

宮本 百合子

「文芸春秋」1937(昭和12)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,792 字 · 20 页

青空文庫

「抽象的な情熱」という十分の自覚に立って日本の文学古典のうち最も生活と芸術とが融合一致していた万葉時代の、生命力に溢れた芸術の精神を唱えるという人々の矛盾を、私たちは何と解釈すべきであろうか。万葉とは対蹠的な罪業や来世の観念に貫かれた王朝の精神というものを、万葉とともに、抽象的な情熱として愛するということは、殆ど理解しがたい迄に困難である。

このように相反する時代精神を享受する情熱が、何故に芭蕉の芸術的精神を肯けないのであろう。抽象性は、何故に芭蕉に面して透明を欠き、具体的となるのであろうか。

芭蕉の作物には源氏物語のような書きだしがないからであろうか。或は林氏のように座談会へ袴を穿いて出席することによって自分が文学をするサムライであることを証言しないからであろうか。または、芭蕉の芸術家としての生きかたは、当時の時代的環境によって、鬱屈的であり、浪々的、捨て身すぎて、今日の作家生活の実際にふさわしくないからでもあろうか。

万葉の芸術家たちの心を、私は自分の粗雑な理解ながら親しみぶかく感じて読んで来た。万葉の芸術には、高貴な方の作品もあり、奴隷的な防人の悲歌もある。