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ぶんがくにおけるこんにちのにほんてきなるもの

文学における今日の日本的なるもの

宮本 百合子

「文芸春秋」1937(昭和12)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,792 字 · 20 页

青空文庫

俗輩どもを無視する作家としての誇りを、紅葉は自身の文学的感覚、教養に認めるしかなかったのであるが、ヨーロッパ文学は未だ彼の血となり切っておらず、境遇的事情もあって、彼は自身を通人として、文人として伝統の裡に活かしめたのであった。

ここで、面白く思われるのは、自由民権が唱えられた時代からのより社会的性質のつよい文筆家たちは「経国美談」の作者の矢野龍溪にしろ中江兆民にしろ、主として新聞人として活躍していることである。作者紅葉とは編輯者対寄稿家という現代の関係が既に生じている。

「金色夜叉」は一世を風靡したが、硯友社の戯作者的残滓に堪え得なかった北村透谷は、初めて日本文学の上にヒューマニティの提唱をもって立ち現れた。高く、広く、輝かしく飛翔せんと欲する自我、人間性は、ロマンチシズムの焔に照らされて、通人の妥協的屈服的世界観を拒絶したのであった。

続いて藤村によって「誰か旧き生涯に安んぜんとするものぞ。おのがじし新しきを開かんと思へるぞ、若き人々のつとめなる」と叫ばれ、「遂に、新しき詩歌の時」が来た。

日清戦争後に起った自然主義の移入は、過去の因習に反逆すると同時にこのロマンチックな人間性への憧憬をも蹴破った。