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ぶんらくざのにんぎょうしばい

文楽座の人形芝居

和辻 哲郎

「思想」1935(昭和10)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,733 字 · 10 页

青空文庫

しかしこの一つの運動を形成する三人はあくまでも三人であって一人ではない。足を動かす人の苦心は彼自身の苦心であって首を持つ師匠の苦心ではない。それぞれの人はそれぞれの立場においてその精根をつくさねばならぬ。そうして彼が最もよくその自己であり得た時に、彼らは最もよく一つになり得るのである。

吉田文五郎氏の話した若いころの苦心談はこの事を指示していたように思われる。足を使っていた少年の彼を師匠は仮借するところなく叱責した。種々に苦心してもなかなか師匠は叱責の手をゆるめない。ある日彼はついに苦心の結果一つのやり方を考案し、それでもなお師匠が彼を叱責するようであれば、思い切り師匠を撲り飛ばして逃亡しようと決心した。そうしてそのきわどい瞬間に達したときに、師匠は初めてうまいとほめた。自分の運命をその瞬間にかけるというほどに己れが緊張したとき、初めて師匠との息が合ったのである。それまでの叱責は自分の非力に起因していた。そこで文五郎氏も初めて師匠の偉さ、ありがたさを覚ったというのである。

このような気合いの統一はしかしただ三人の間に限ることではない。他の人形との間に、さらに語り手や三味線との間に、存しなくてはならない。