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ぶんしょうそのた

文章その他

坂口 安吾

「鷭 第一輯」鷭社、1934(昭和9)年4月11日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,564 字 · 10 页

青空文庫

併し芸術の中に於て、このことは有りうるのである。そうして、それあるが故に、それが芸術とも呼ばれる一つの理由となるのである。私は、レアリスムというものは、当然この種の飛躍した表現をもって然るべきだと思う。

さらに、名文の典型的な見本を見たいならシーザアの為になされたアントニオ(という名前だったかしらん――)の真情切々たる演説を見られるがいい。諸兄先刻御承知の事と思うし、少々長いので引用は差し控えるが、あれを読めば羅馬の市民ならずともシーザアの死に泪を流し、ブルタスに怒りを燃さずにいられない。私なぞ出来損いのロマンチックな性癖が祟って思わず、ホロリとしたことであった。

これはジイドの言葉だが、小説家が己れを知ろうとすることは甚だ危険なことである、と。なぜなら、もしも小説家が己れを見出したなら、彼は全ての観察に己れを模倣することになってしまう。そして自分の通路と限界を知った以上は、それを越すことができなくなるだろう、というのである。真の芸術家は彼が制作するときには常に半ば自分自身のことには無意識である。彼はただ彼の作品を通してのみ、作品に依ってのみ、作品の後に於てのみ、己れを知るようになるのである、と。