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どうじ

文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子

室生 犀星

室生犀星『文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子』。同一底本的分册已合并为一书。收入:童子、ゆめの話、あじゃり、蛾、幻影の都市、香爐を盗む、三階の家、しゃりこうべ、天狗、童話、後の日の童子、不思議な国の話、不思議な魚、みずうみ。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 177,454 字 · 357 页

青空文庫

そのときの疲労しつくした眼の下には黒ずんだ輪さえうかんで、じとじとしたあぶらが、額のうえに浮きでていた。

女は恐ろしいものから遁れたように、「ああ。」と言って溜息をついたが、息がはずんでいるために肩さきが震えて見えた。女はしばらくすると勝手へ出て行ったが、すぐ、生水を呷っているらしい喉鳴りがごっつりと、幾たびもつづいた。女はもとのところに坐ると、目のさきにふらふらと動くものを感じて仕方がなかった。目のせいかと平手で目をこすったりしたが、しかし動くものは絶え間なくその動きをつづけていて止まなかった。はっと気がついたとき柱時計がそこにかかっているのを見た。何心なくであったが、

「時計がうごいていたのだ。」そう言って女はうっすりした微笑をうかべた。笑っているのかいないのか判らないほどの、きわめて変な微笑であった。間もなくも一度時計を見るとこんどは気味悪く声にまで出して微笑ったとき、女は自分で自分の微笑い声にびっくりしてあたりを見まわした。そのとき九時を三十分過ぎた針がおたまじゃくしのようにちょろちょろ泳いでいるように見えた。

十時がすぎ、十一時がすぎ、最終列車の汽笛がいつものようにしたときまで、女はやっぱり坐ったまま眠るでもなく醒めるでもない、うつらうつらした籠に揺られるような気でゆらゆらしていた。