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どうじ

文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子

室生 犀星

室生犀星『文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子』。同一底本的分册已合并为一书。收入:童子、ゆめの話、あじゃり、蛾、幻影の都市、香爐を盗む、三階の家、しゃりこうべ、天狗、童話、後の日の童子、不思議な国の話、不思議な魚、みずうみ。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 177,454 字 · 357 页

青空文庫

寒かった。

男の室から小さいいびきが起りはじめた。うさぎのように耳をつっ立てた女が、それをきくと見る間に憂鬱な曇った眉と目とのあいだから、さめざめと泣き出した。一時にためた様々な悲しそうな長い忍び泣きがつづいた。それはふしぎに笛のような声にも似ていたし、鼻でくんくん啼く犬のこえにも何処か似ていた。

男はある日仕事場の鉋屑をまぜ返したり、道具箱をがちゃがちゃ鳴らしたりして、しきりに何か捜しているようであった。雨は飴いろにそとの空気をそめた陰気な午后であった。

女がひょこり仕事場に顔を出すと、男はあわてた恰好でたずねた。

「鑿が見えない。鑿が……。」

鉋屑を掻き廻しながら言った。

「そう。箱のなかにないでしょうか。」と女は道具箱を覗き込んだが、そこにもなかったのだ。

「いや箱にはないのだ。ふしぎだ。実にふしぎだ。現に今使っていたんだが。」

男はそう言ってぼんやり女のかおを見た。女はそのとき鋭くあたりに目をくばって、そこらの棚や仕上物や材木のあたりを凝視め出した。そのとき不思議に女の眼がだんだん眇になり出してきたのである。いつもするような烈しい斜視が、めらめらと燃えつくように鉋屑のあたりを這い廻った。