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どうじ
文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子
室生 犀星
室生犀星『文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子』。同一底本的分册已合并为一书。收入:童子、ゆめの話、あじゃり、蛾、幻影の都市、香爐を盗む、三階の家、しゃりこうべ、天狗、童話、後の日の童子、不思議な国の話、不思議な魚、みずうみ。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 177,454 字 · 357 页
おあいは、はじめて気がついて、玄関へ出て行った。そこには、網盥と、手網とその日の弁当と、他に焚火の材料を切る鉈とがあった。
弁当はつかってあった。手網も網盥もからからに干せあがっていた。ふしぎなことは、網盥のなかから町人内儀のつかう塗櫛が一枚、網盥をうごかしたのでかっちりと音を立てた。おあいはかっとした。わけもなく、そう一時に頭がきゅうに重くなった。こんな網盥のなかに女の櫛があろう筈がない。川漁に行ってこんな物が落ちていそうもないことだ。これは変だ。
「ひょっとすると――。」
おあいは、行燈のそばへ行って、塗櫛をすかしてながめた。その櫛の背なかには、小さな魚族のむれが列をつくっているのが、金蒔絵で、しかも巧緻に描きあげられてあった。それから魚のつらなりは、ほそい、あるかないかの線状からなり立って、ぴりぴり顫えているようだった。櫛にしては珍らしい絵で、その上、おあいが鼻のさきへ持って行ってごうとしたが、一向あぶらの臭いがしなかった。なんだか水苔のような、じめじめした匂いが湿って鼻孔を圧してきた。女のものなれば香料の匂いがする筈だ。それだのに、一向それがしない。