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うきふね
文豪怪談傑作選・特別篇 鏡花百物語集
泉 鏡花
泉鏡花『文豪怪談傑作選・特別篇 鏡花百物語集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:浮舟、露萩。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,938 字 · 67 页
御神燈は未だ白かったのに、夜の暗さ、別荘の門、街道も寝静まる、夢地を辿る心地して、宮歳のかよわい手に、辰吉は袖を引かれて来たのであった。
「へい、仕立ものの御用はねえかね。」
きょろん、とした六蔵より、巽が却って茫然とした。
宮歳の姿は、潮の香の漾う如く消えたのである。
別荘の主人池川の云うのには、その宮歳は、小雪と姉妹のように仲のよかった芸妓である。
内証ながら、山田の御師、何某にひかされて、成程、現に師匠をしている、が、それは、山田の廓、新道の、俗に螢小路と云う処に媚かしく、意気である。
言語道断、昨夜急に二見ヶ浦へ引越して来る筈はない!
扨て翌朝の事であった。
電話で、新道の一茶屋へ、宮歳の消息を聞合せると、ぶらぶら病で寝ていたが、昨日急に、変が変って世を去った。
――写真を抱いていましたよ、死際に薄化粧して……巽さんによろしく……――
その時、別荘の座敷の色は、二見ヶ浦の、海の蒼いよりも藍であった。
簾に寄る白浪は、雪の降るより尚お冷い。
その朝、六蔵も別荘の客の一人であった。が、お先ばしりで、衆と一所に、草の径を、幻の跡を尋ねた――確に此処ぞ、と云う処に、常夏がはらはら咲いて、草の根の露に濡れつつ、白檀の蒔絵の、あわれに潮にすさんだ折櫛が――その絵の螢が幽に照った。