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うきふね
文豪怪談傑作選・特別篇 鏡花百物語集
泉 鏡花
泉鏡花『文豪怪談傑作選・特別篇 鏡花百物語集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:浮舟、露萩。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,938 字 · 67 页
「……尤も、行儀よく一人ずつ行くのではありません。いずれ乱脈でしょうから、いまのうち凄い処――ははは、凄くもありますまいが、ひとつ御覧なすって、何うぞまた、何かと御注意、御助言を下さいまし。」
「御注意も何もありませんが、拝見をさして頂きましょう」
「さ、何うぞ此方へ。」
――後で芳町のだと聞いた、若い芸妓が二人、馴染で給仕をして、いま頃夕飯を、……ちょうど茶をつがせて箸を置いた。何う見ても化ものには縁の遠そうな幹事の白尾が、ここで立つと、「あら、兄さん、私も。」「私も。」と取りつくのを、「お前さんたちはあとにおし。」で、袖を突いて、幹事室を出るのに、真三は続いた。
催はまだはじまっていない。客は会場の広室に溢れ、帳場にこぼれ、廊下に流れて、わやわやとざわめく中を、よけるようにして通って、一つ折曲る処で、家内総出で折詰の支度に料理場、台所を取乱したのを視ながら、また一つ細く成る廊下を縫うと、其処にも、此処にも、二三人、四五人ずつは男、女が往来う、彳む。何しろ暑いので、誰も吹ぬけの縁を慕うのであった。
「では、此処から庭へ――」
「あれですか。」
真三は、この料亭へは初めてだったし、夜である。