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だんがい

断崖

江戸川 乱歩

「報知新聞」報知新聞社、1950(昭和25)年3月1日~12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,102 字 · 27 页

青空文庫

もっとほかの兇器を用意しているかも知れない。ピストルが元の場所にあったからといって、決して油断はできない。そう考えると、あたしはいよいよ不安になった」

男「そこで、君はあのピストルを、自分で持っていようと決心したんだね」

女「ええ、その方がいくらか安心だと思ったの。それで、あたし、ピストルを自分の部屋にうつして、夜はベッドの中へ持ってはいることにしたのよ」

男「悪いものがあったねえ。あれさえなければ……」

女「あたし、あなたにたずねたわね。紺オーバーの男が、あたしの寝室へ入って来たとして、その時あたしがピストルであの男をうったら、どんな罪になるでしょうかって」

男「そうだったね。僕はあの時、見知らぬ男が暴力で屋内に侵入して、寝室にまで踏みこんで来たら、男の方に危害を加える意志がなかったとしても、正当防衛は成り立つ。たとえ相手をうち殺しても、罪にはならないと答えた。事実それにちがいないんだが、今から考えると悪いことを言った」

女「そして、とうとうあの男がやって来た。もう来るかもう来るかと、斎藤の不在の夜は、そればっかり待っていたほどよ。十二時すぎ、あの男は塀をのりこえ、廊下の窓から忍びこんで、足音も立てないで、あたしの寝室のドアをひらいた。