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こういうきもち

斯ういう気持

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年5月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,379 字 · 9 页

青空文庫

愛は、

「私、一寸出かけて来てよ」

と云った。

「行っといで――さっきの借金忘れないように」

「――だから頂戴」

禎一は訝しそうに、愛の顔を見上げた。

「何を?」

「私の――」

「お前の? 何さ」

「ほんとによ」

愛は、極りのわるそうな顔で囁いた。

「これから放ぽり出してなんか置かないから、ね」

「何さ、わからないよ」

本当に、良人が何を云われて居るのか分らないのを知ると、愛には益々金入れの行方が判らなくなって来た。彼女には、前に一度そういう経験があった。今よりもっと途方に暮れ、さがしあぐねて居ると、禎一が何気なく

「二階見たかい」

と尋ねた。ある筈ないんだけど、と、愛が行って机の引出しをあけて見たら、計らず其がとりあげられて居た。その時を思い出し、彼女は、いきなり良人の仕業と思い込んだのであった。

「どうしたんでしょう、全くないの」

「変じゃあないか」

禎一も立って下に来た。

「ここにあったのよ、確なの其は」

「――台処の木戸あけたかい? 今朝」

「いいえ」

「――昨夜、この部屋に居たのは――小幡とふきだけだね」

「ええ」

何か推考する禎一の瞳と愛の眼がぴったり合った。愛は、ありあり意味を感じ小さい不安そうな声で訊いた。