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しんまんようものがたり
新万葉物語
伊藤 左千夫
「文章世界 第四卷第二號」1909(明治42)年2月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,832 字 · 10 页
去年の秋小学高等科を優等で卒業してから、村中の者が、その娘を叱る詞には、必ず上みの家のお小夜さんを見ろというように評判がよいのである。
お小夜の母は十年以来多病で耕作の役には立たない。父なる人の腕一つで家族は養われて来た。今日も父は馬を曳いて浜へ日に二度目の荷上げに行った。どうせ夜でなけりゃ帰らない。
病人が眼を覚したら、この薬を飲ませてくれと、お小夜は懐にあった薬を祖母に渡して立った。そこに落ちてた金巾の切れを拾って、お小夜は手にあまる黒髪を頸のあたりに結わえた。そうして半纏を脱ぎ襷を掛けながら土間へ降りた。祖母はお小夜の、かいがいしく頼もしい、なりふりを見て、わが身にもこの家にも、望みが立ちかけたような思いがした。
今までかじけにかじけて、炬燵にしがみついていた祖母もにわかに起って、庭のあたりを見廻り、落ちた物を拾ったり、落葉など掻き寄せたりする。国吉もいつのまにか帰って来た。
「お祖母さんおれもやってやる」と叫んで掻き散らしてる。
お小夜は飯汁の外に麦をえます、その跡で馬の物を煮る、馬の裾湯を沸かす。小さな家にも馬が一つあれば日暮の仕事はすこぶる忙しいのだが、お小夜はその駈け廻るように忙しい中でも、隣家園部の家の物音にしばしば耳を立てるのである。