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しんまんようものがたり

新万葉物語

伊藤 左千夫

「文章世界 第四卷第二號」1909(明治42)年2月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,832 字 · 10 页

青空文庫

父は驚いて、

「もうずいぶん晩いだろう……今から搗かないだってどうにかなんねいかい。明日の朝の分だけあるなら明日のことにしたらどうだい」

「あァにぞうさねいよお父さん、今夜一臼搗いて置かねけりゃ、明日の仕事の都合が大へん悪いからね。お父さんはくたぶれたでしょう、かまわないで寝て下さい」

お小夜は父にかまわず、とうんとうんと杵の音寂しく搗いてる。「そっだらおまえ黒くともえいから、えい加減に搗いて寝ろや。おら先に寝るから」といって疲れた父は納戸へ這入るが否やすぐ鼾を漏らすのであった。

園部の家でなおときどき戸を開閉する音がするばかり、世間一体は非常に静かになった。静かというよりは空気が重く沈んで、すべての物を閉塞してしまったように深更の感じが強い。お小夜はまた例の三郎のことに屈托してか、とぎれとぎれにとうん……とうんと杵を卸してる。力の弱い音に夜更の米搗、寂しさに馴れてる耳にも哀れに悲しい。お小夜はわれとわが杵の音に悲しく涙を拭いた。

病母の咳く声がする、父の鼾がつまりそうにしてまた大きく鳴る、国吉が寝言をいう、鼠が畳の上を駈け廻る。お小夜はそんな物音が一々耳にとまる。