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にいづまのしゅき

新妻の手記

豊島 与志雄

「再建評価」1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,807 字 · 22 页

青空文庫

或る日の午後、駒込の伯父さまがいらして、母と何か話しこんでいかれた。同じ吉川姓で、亡くなった父の兄に当る人である。

私はだいたい、実家の方の縁故の人が来た時は、その時に平気で坐りこむが、こちらの縁故の人が来た時は、遠慮してなるべく席を避けることにしていた。それに、伯父さまと母とのその日の対談にはなにか内緒事があるらしい感じで、私がお茶をいれかえに行ったり、果物をむいて持って行ったりする度に、伯父さまはまるで取ってつけたように、私に向って、もうすっかり家事に馴れたようですねとか、いいお嫁さんになってお母さんも安心ですよとか、お世辞めいたことを言われるので、私はそこに居づらかった。

そしてその晩、母は私に肌襦袢の縫い物を言いつけておいて、吉川の室で、長い間話しこんでいた。なにか大事な用件らしく私にも思えた。

ところが、そのあとで、母が寝てしまってから、吉川から聞くと、事柄はつまらないが、ちと妙な話だった。

駒込の伯父さまは、戦災の焼け跡に、五室ばかりの瀟洒な家を新築して住んでいる。伯母さまは先年亡くなり、伯父さまは元内務省の官吏上りで、今はどこにも勤めず、ぶらぶら遊んでいる。