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しんねんざっそ
新年雑俎
寺田 寅彦
「一橋新聞」1935(昭和10)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,034 字 · 6 页
そういう寒い部屋で相対坐している主人に百パーセントの好意を感じようとするのは並々ならぬ意志の力を必要とするようである。
多くの家では玄関は家の日裏にあり北極にあたる。昼頃近くになっても霜柱の消えないような玄関の前に立って呼鈴を鳴らしてもなかなかすぐには反応がなくて立往生をしていると、凜冽たる朔風は門内の凍てた鋪石の面を吹いて安物の外套を穿つのである。やっと通されると応接間というのがまた大概きまって家中で一番日当りの悪い一番寒い部屋になっているようである。
自分が昔現在の家を建てたとき一番日当りがよくて庭の眺めのいい室を応接間にしたら、ある口の悪い奥さんから「たいそう御客様本位ですね」と云って、底に一抹の軽い非難を含んだような讃辞を頂戴したことがあった。この奥さんの寸言の深い意味に思い当る次第である。
屠蘇と吸物が出る。この屠蘇の盃が往々甚だしく多量の塵埃を被っていることがある。尤も屠蘇そのものが既に塵埃の集塊のようなものかもしれないが、正月の引盃の朱漆の面に膠着した塵はこれとは性質がちがい、また附着した菌の数も相当に多そうである。日当りの悪い部屋だと塵の目立たぬ代りに菌数は多いであろう。