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しんじゅのことば

新樹の言葉

太宰 治

太宰治『新樹の言葉』。同一底本的分册已合并为一书。收入:新樹の言葉、I can speak、愛と美について。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,156 字 · 59 页

青空文庫

「そうか。そうか。そうですか。」私は、自分ながら、みっともないと思われるほど、大きい声で笑い出した。「これあ、ひどいね。まったく、ひどいね。そうか。ほんとうですか?」他に、言葉は無かった。

「は、」幸吉も、白い歯を出して、あかるく笑った。「いつか、お逢いしたいと思っていました。」

いい青年だ。これは、いい青年だ。私には、ひとめ見て、それがわかるのである。からだがしびれるほどに、謂わば、私は、ばんざいであった。大歓喜。そんな言葉が、あたっている。くるしいほどの、歓喜である。

私は生れ落ちるとすぐ、乳母にあずけられた。理由は、よくわからない。母のからだが、弱かったからであろうか。乳母の名は、つるといった。津軽半島の漁村の出である。未だ若い様であった。夫と子供に相ついで死にわかれ、ひとりでいるのを、私の家で見つけて、傭ったのである。この乳母は、終始、私を頑強に支持した。世界で一ばん偉いひとにならなければ、いけないと、そう言って教えた。つるは、私の教育に専念していた。私が、五歳、六歳になって、ほかの女中に甘えたりすると、まじめに心配して、あの女中は善い、あの女中は悪い、なぜ善いかというと、なぜ悪いかというと、と、いちいち私に大人の道徳を、きちんと坐って教えてくれたのを、私は、未だに忘れずに居る。