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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

「職工は正直でがんすけん、皆体で打っつかって行きゃんさアね。」

とうとう門が崩れた。蜂が飛ぶように黒点が散った。光った海の上を、小舟が無数に四散して行っている。

潮鳴の音を聞いたか!

茫漠と拡がった海の上の叫喚を聞いたか!

煤けたランプの灯を女房達に託して

島の職工達は磯の小石を蹴散し

夕焼けた浜辺へ集まった。

遠い潮鳴の音を聞いたか!

何千と群れた人間の声を聞いたか!

ここは内海の静かな造船港だ

貝の蓋を閉じてしまったような

因の島の細い町並に

油で汚れたズボンや菜っぱ服の旗がひるがえっている

骨と骨で打ち破る工場の門の崩れる音

その音はワアン、ワアンと

島いっぱいに吠えていた。

青いペンキ塗りの通用門が勢いよく群れた肩に押されると

敏活なカメレオン達は

職工達の血と油で色どられた清算簿をかかえて

雪夜の狐のようにランチへ飛び乗って行ってしまう

表情の歪んだ固い職工達の顔から

怒りの涙がほとばしって

プチプチ音をたてているではないか

逃げたランチは

投網のように拡がった巡警の船に横切られてしまうと

さてもこの小さな島の群れた職工達と逃げたランチの間は

只一筋の白い水煙に消されてしまう。

歯を噛み額を地にすりつけても