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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

何時も土曜日には帰って来るのだそうである。一度チラとやせた背の高い姿を見たきり。マダム・ロアは、古風なスカートのように肥って沈黙った女だった。私はお君さんの御亭主の紹介で来たものの、ここはあまり収入もないのだ。コックも日本人なので、外人客は料理は食べないで、いつもビールばかり呑んで行った。

「私、あんたんとこの人に紹介されて来たので、本当は東京へ帰りたいんだけれど、遠慮をしていたのよ。」

「浜へ行ったら金になるなんて云って、結局はあの女と一緒になりたかったからでしょうよ。」

お君さんの御亭主は、お君さんと親子ほども年が違っているのに妾を持っていた。

「実際、私達は男の為めに苦労して生きてるようなものなのね。」

お君さんは波止場の青い灯を見ながら、着物もぬがないでぼんやり部屋に立っている。私はふっと、去年のいまごろ、寒い日にお君さんと、この浜へ来た事を思い出した。あれから半年あまり、もうお君さんとは会えないと思いながら、どっちからともなく尋ねあって行き来している事を思うと、ほほ笑ましくなって来る。――十三の時に子供を産んだと云うお君さんは、「私はまだほんとうの恋なんてした事がないのよ。