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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

畳の上では何か焼いた跡らしく、点々と畳が焦げていて、たいさんの茶色のマントが、見るもむざんに破られていた。

「庄野さんとこへ昨夜泊ったのよ。」

たいさんはニヤリと笑っていた。いやな笑いかたである。思うように思うがいいだろう。私はもう捨てばちであった。たいさんはいいひとが出来たと云った。そして結婚をするかも知れないと云っている。うらやましくて仕様がない。今は只沈黙っていたいと云っていた。淋しかったが、たいさんの顔は何か輝いていて幸福そうだ。みじめな者は私一人じゃないか。私はくず折れた気持ちで、片づけているたい子さんの白い手を呆んやりながめていた。

*

(二月×日)

黄水仙の花には何か思い出がある。窓をあけると、隣の家の座敷に燈火がついていて、二階から見える黒い卓子の上には黄水仙が三毛猫のように見えた。階下の台所から夕方の美味しそうな匂いと音がしている。二日も私は御飯を食べない。しびれた体を三畳の部屋に横たえている事は、まるで古風なラッパのように埃っぽく悲しくなってくる。生唾が煙になって、みんな胃のふへ逆もどりしそうだ。ところで呆然としたこんな時の空想は、まず第一に、ゴヤの描いたマヤ夫人の乳色の胸の肉、頬の肉、肩の肉、酸っぱいような、美麗なものへ、豪華なものへの反感が、ぐんぐん血の塊のように押し上げ