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しんぱん ほうろうき
新版 放浪記
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页
火のない長火鉢に、両手をかざしていると、その本の群立が、大きい目玉をグリグリさせて私を嗤っているように見える。障子の破れが奇妙な風の唄をうたっていた。ああ結局は、硝子一重さきのものだ。果てしもなく砂に溺れた私の食慾は、風のビンビン吹きまくる公園のベンチに転がるより仕ようがない。へへッとにかく、二々が四である。たった一枚のこっている、二銭銅貨が、すばらしく肥え太ったメン鶏にでも生れかわってくれないかぎり、私の胃のふは永遠の地獄だ。歩いて池の端から千駄木町に行った。恭ちゃんの家に寄ってみる。がらんどうな家の片隅に、恭ちゃんも節ちゃんも凸坊も火鉢にかじりついていた。這うような気持ちで御飯をよばれる。口一杯に御飯を頬ばっている時、節ちゃんが、何か一言優しい言葉をかけてくれたのでやみくもに涙が溢れて困ってしまった。何だか、胸を突き上げる気持ちだった。口のなかの飯が、古綿のように拡がって、火のような涙が噴きこぼれてきた。塩っぱい涙をくくみながら、声を挙げて泣き笑いしていると、凸坊が驚いて、玩具をほおり出して一緒に泣き出してしまった。
「オイ! 凸坊! おばちゃんに負けないでもっともっと大きい声で泣け、遠慮なんかしないで、汽笛の様な大きな声で泣くんだよ。