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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

神様よ笑わないで下さい。私の本能なんてこんなに汚れたものではないのです。私は沈黙って両手を火鉢にかざしていた。「いい部屋にいるんだね。」この男は、まるで妾の家へでもやって来たかの如く、オーヴァをぬぐと、近々と顔をさしよせて、「そんなに困っているの……」と云った。

「十円位ならいつでも貸してあげるよ。」

暗いガラス戸をかすめて雪が降っている。私の両手を、男は自分の大きい両手でパンのようにはさむと、アイマイな言葉で「ね!」と云った。私はたまらなく汚れた憎しみを感じると、涙を振りほどきながら、男に云ったのだ。

「私はそんなンじゃないんですよ。食えないから、お金だけ貸してほしかったのです。」

隣室で、細君のクスクス笑う声が聞えている。

「誰です! 笑っているのは……笑いたければ私の前で笑って下さい! 蔭でなぞ笑うのは止して下さい!」

男の出て行った後、私は二階から果物籠を地球のように路地へほうり投げてしまった。

*

(二月×日)

私は私がボロカス女だと云うことに溺れないように用心をしていた。街を歩いている女を見ると、自分のみっともなさを感じないけれども、何日も食えないで、じっと隣室の長閑な笑い声を聞いていると、私は消えてなくなりたくなるのだ。