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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

「お母さん! この世の中で何かしてみせたい、何か義理を済ませたいなんて、必要ではないではありませんか。」と私はおこっているのであった。ああだけど、母のこの小さな願いをかなえてやりたいとも思う。私は何と云うひねくれ者であろうか、長い間のニンタイが、私を何も信じさせなくしてしまいました。肉親なんて犬にでも喰われろと云った激しい気持ちになっている。

ああ二十五の女心の痛みかな

遠く海の色透きて見ゆる

黍畑に立ちたり二十五の女は

玉蜀黍よ、玉蜀黍

かくばかり胸の痛むかな

二十五の女は海を眺めて只呆然となり果てぬ。

一ツ二ツ三ツ四ツ

玉蜀黍の粒々は、二十五の女の侘しくも物ほしげなる片言なり

蒼い海風も

黄いろなる黍畑の風も

黒い土の吐息も

二十五の女心を濡らすかな。

海ぞいの黍畑に立ちて

何の願いぞも

固き葉の颯々と吹き荒れるを見て

二十五の女は

真実命を切りたき思いなり

真実死にたき思いなり

伸びあがり伸びあがりたる

玉蜀黍は儚なや実が一ツ

ここまでたどりつきたる二十五の女の心は

真実男はいらぬもの

そは悲しくむずかしき玩具ゆえ

真実世帯に疲れるとき

生きようか、死のうか

さても侘しきあきらめかや

真実友はなつかしけれど一人一人の心故……