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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

風に吹かれる雨戸のようにふわふわしている。それっきりだ。

銀座へ出て滝山町の朝日新聞に行く。中野秀人と云うひとに逢う。花柳はるみと云う髪を剪ったはいからな女のひとと暮しているひとだと風評にきいていたので、胸がどきどきした。世間のひとと云うものは、なかなかひとの貧乏な事情なぞ判ってはもらえない。詩をそのうち見ていただきますと云って戸外へ出る。

中野さんの赤いネクタイが綺麗だった。

紹介状も何もない女の詩なんか、どこの新聞社だって迷惑なのだ。銀座通りを歩く。

広告に出ていたタイガーと云う店があった。並んで松月と云う店もある。みとれるように綺麗なひとがきどった小さい白まえだれをしてのぞいている。胸まであるエプロンはもう流行らないのかしら。

砂まじりの強い風が吹いた。

四丁目で、コック風な男が、通りすがりの人に広告マッチを一つずつくれている。私も貰った。後がえりして二つも貰った。

ものを書いて金にしようなぞと考えた事が、まるで夢みたいに遠い事に思える。表通りの暮しは、裏通りの生活とはまるきり違うのだ。十銭の牛飯も食えないなんて……。

(三月×日)

ハイネとはどんな西洋人か知らない。