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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

ドン・ザッキと云う面白い人物にあう。おかっぱで、椅子の間を踊り歩く。紙がないので、新聞紙に詩を書いて張る。

おそれながら申しあげます

わたしはただ息をしている女

百万円よりも五十銭しか知らない

牛めしは十銭

葱と犬の肉がはいってるのね

小さくてだるまみたいで

よく泣いているおこりんぼ。

いいえもういいのよ

男なんかどうでもいいの

抱きあって寝るだけのこと

十五銭のコップ酒

皿においてるけど

馬鹿に尻だかで世間をごまかす

酔えばいい気持ち

千も万も唄いたくなるのよ。

いずくにか

わがふるさとはなきものか

葡萄の棚下に寄りそいて

寄りそいて

一房の青き実をはみ

君と語ろう ひねもす

ひねもす……。

かえり十時。道玄坂の古本屋で、イバニエスのメイ・フラワア号を買う。四十銭也。駅の近くの居酒屋で赤松月船と酒を飲む。昆布巻き二つとコップ酒。馬鹿に勇ましくなる。

下宿へ御きかん十二時。森とした玄関に大きい金庫が坐っている。あの中に何かあるのだろう。洗面所へ行って水を飲む。冷々としている。こおろぎがないている。ふっとつまらなくなる。一日一日が無為なり。いったいどうなるのか判らぬ。一度、田舎へかえりたいと思う。