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しんぱん ほうろうき
新版 放浪記
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页
石に凭れてみる。いつかは、私も墓石になるときが来る。何時かは……。私はお化けになれるものだろうか……。お化けは何も食べる必要がないし、下宿代にせめられる心配もない。肉親に対する感情。恩返しをしなければならないと云うつまらぬ苛責。みんな煙の如し。
雨戸の奥で、石屋さんの家族の声がしている。まだ無縁な、誰の墓石になるとも判らない、新しい石に囲まれて、石屋さんは平和に眠っている。朝になれば、また槌をふるって、コツコツと石を刻んで金に替えるのだ。
いずれの商売も同じことだ。
石に腰をかけていると、お尻がしんしんと冷い。わざと孤独に身を沈めたかっこうでいると、涙があとからあとから溢れこぼれる。
平和に雨戸を閉ざした横町が奥深くつづいている。省線の音がする。匂いのいい花の香がただようている。私はいつもおなかが空いている。少しでも金があれば、私は尾道へかえってみたいのだ。
私は多摩川にいる野村さんと一緒になろうかと思う。
どうにも、独りではやりきれないのだ。
誰も通らない星あかりの昏い通りを、墓地の方へ歩いてみる。怖ろしい事物には、わざと突きすすんでふれてみたいような荒びた気持ちだ。